放送番組審議会

2月(第65回)

概要

1.    平成 15年2月27日(木)午前11時~

2.    岩手朝日テレビ本社・会議室

3.委員の出席

委員総数    10名

出席委員数  7名

委員長      増子 義孝 

副委員長     及川 和男

委員       笠川 さゆり

委員       大坊 忠

委員       松尾 正弘

委員       松本 直子

委員       宮野 裕子

欠席委員数  3名

委員       石井 三郎

委員       植本 花子

委員       小川口 柳太郎

会社側出席者名

代表取締役社長    川崎 道生

代表取締役専務    村上 昇

取締役営業本部長補佐 横舘 英雄

取締役業務局長    河邊 喬

報道制作局部長    吉田 孝幸

技術局長       山口 孝

番組審議会事務局長  末吉 正憲

4.議題

(1)3月の番組編成について

(2)番組合評

  「Yuiスペシャル 椎名誠がんばらない宣言いわて」について

(3)次回の審議会

開 催 日:平成15年3月27日(木)

合評課題:「銀幕のイーハトーヴ~岩手・映画の大地~」

(4)その他

5.概要

「Yuiスペシャル 椎名誠がんばらない宣言いわて」について

*時がゆったりと流れ、ほっとさせられる、いい番組だった。

*非常に懐かしい風景がふんだんに出てきてよかった。

*環境問題がいろいろいわれるが、岩手県はまだまだ自然が残っており、ホッとさせられる番組だった。

*「がんばらない」というが、われわれがんばってきた県民にとって、イメージがもうひとつ鮮明にならない気がした。

*椎名さんのゆったりとした話し方、高橋政彦さんの朴訥な話し方、ゆったりとした番組の進み方。視聴者は、癒しを感じたのではないか。

*高橋喜平さんの写真に出てくる「雪まくり」「雪えくぼ」「雪レース」など、かつて単にきれいとしか感じなかったものに名前が付いて、感激した。

*囲炉裏を囲んで談笑する場面があったが、もう少し食べるシーンがあってもよかったかな。

*「がんばらない宣言」を前面に打ち出すとすれば、普通に生活している人の日常を淡々と取り上げる方法もあったのではないか。

*雪椿や雪に埋もれた雑草が出てきたが、般若心経を思い出した。豪雪地帯の生活は確かに大変だが、般若心経のいうところは、あるものをあるがままに受け止める。物理的なことではなく精神的なことです。雪が積もると、雪かきをしなければいけない。冬だから寒くて当たり前。自分の心の中でそう思うことが、思わないよりもストレスが減少する。そんなことを般若心経は言っています。

*古い家屋の色や雪に閉ざされた生活の色など、できれば15時台の時間帯ではなく、日が暮れる時間帯であれば、画面と視聴者の一体感がもっと得られたのではないか。

*映像が本当に美しく、素晴らしかった。

*「がんばらない宣言」というタイトルについては、無理にこじつけるような解説か何かが出てくると思ったが、それがなくてよかった。みなさんの話を聞いていて「がんばらない宣言」はそれぞれ解釈すればいいと思った。

*いい番組だったし、県外の人にも見てほしいと思った。

6.議事の内容

末吉事務局長

 第65回番組審議会を開催致します。初めに川崎社長よりご挨拶申し上げます。

川崎社長

 お忙しい中、お集まり頂きましてありがとうございます。来月、年度末を迎えますので、社内では営業等々の収支を含めて詰めをしている最中でございますが、ご多分に漏れず非常に厳しい状況でございます。常日頃、心がけているつもりですが、出来るだけ経費等々を可能な限り削減しながら対応していこうと、社の運営に関しては考えております。

 先週、ANN系列社長会が東京で催されまして、そこでいくつかの話題が出ましたが、今月総務省が発表しましたマスコミの集中配慮の緩和策も話題になりました。これにつきましては我々も勉強を重ねていこうと考えております。それから、先月の審議会でも話題になりました消費者金融のコマーシャルについて一言。消費者金融のコマーシャルについては、「放送と青少年に関する委員会」に対して、民間の団体から自粛の申し入れが折に触れて出ております。最近は、17時から21時の時間帯に流すことを廃止すべきという申し入れが民放連に提出されております。社によって若干の差異はありますが、現在、テレビで扱っている消費者金融は大手6社が中心です。この6社は法定利息の中に十分納まる形をとっており、基本的に問題ないというのが、民放各社の検討結果です。しかし、この申し入れは大手6社以外の、膨大な利息をとったりする所も同等に考えておられるようです。ですのでその整備がなされていないということで、民放各社も対応に苦慮しているようです。非公式に大手6社と各局は話し合いをしておるようですが、消費者金融側は、自分たちは市民権を得ていると自負しておりまして、コマーシャルを廃止するということは、表現の自由にも関わってくる問題ではないかと捉えておられます。この問題は非常に難しいのですが、テレビ朝日の広瀬社長は、今夏までには何らかの方向性を打ち出さなくてはいけないとおっしゃっておりましたので、対応策はこの先論議が深まる状況にあります。つまり全廃することは無理ですが、何らかの手立てを打つことが一つのポイントになってきております。以上でござまいす。本日もよろしくお願いいたします。

末吉事務局長

 ありがとうございます。それでは議事の進行、増子委員長お願いいたします。

増子委員長

 3月の番組編成についてご説明をお願いします。

河邊業務局長

 レギュラー番組については特に変更はございませんので、単発番組について説明させて頂きます。3月もIAT制作番組および系列局が制作した番組が多く編成されております。

 まずは3月1日(土)「カリガネが舞う空~立松和平 中国大湿原に幻の鳥を追う~」。東日本放送制作です。かつては万葉集に詠まれるほど身近でしたが、今では年に10羽程度しか確認されない渡り鳥のカリガネ。国際自然保護連合の絶滅危惧Ⅱ類に指定されたこのカリガネを追って、立松和平が中国湖南省の洞庭湖へ向かい、日本では幻となったカリガネを通して、湿原の明日を見つめるという内容です。

 そして3月4日(火)19:00から54分枠で「銀幕のイーハトーヴ~岩手・映画の大地~」。当社制作の番組でございます。ナレーターは寺尾聰、出演は山田洋次、丘みつ子ほか。過去、幾多の名作映画のモチーフになってきた岩手県でございますが、番組では、岩手でロケされた映画作品を振り返りながら、その撮影に関わった人々の証言を集め、「映画」という大きな存在が人々の心に残した様々な足跡を辿っていく、映画が盛んな土地といわれる岩手の姿を改めて探っていきます。名匠山田洋次監督が葛巻町でロケを行いました「イーハトーヴの赤い屋根」に出演しました女優の丘みつ子さんを25年ぶりにお呼びしまして、当時、子役で出演した方々と対談して頂いて、当時を振り返って頂くというシーンもございます。また、盛岡映画館通りやミステリー映画祭、映画のロケ地としてよく使われる江刺市の藤原の里や、盛岡広域フィルムコミッションの活動などを盛り込んで番組を構成しております。次回の審議会の合評番組でもありますので、是非ご覧ください。

 3月22日(土)「裏磐梯を創った男たち」。福島放送制作です。内容は、1888年の磐梯山の噴火後、北側にあたる裏磐梯一帯は荒廃の原野と化した。手付かずの荒地が十数年続いた後、国は裏磐梯を民間の資本と労力で開拓緑化する計画を立てた――。屈指の観光地である裏磐梯の景観を創るため、私財を投げ打って尽力し、泥流地に緑を甦らせた男たちの人生を検証します。

 3月29日(土)「比内地鶏はピルナイの恵み」。こちらは秋田朝日放送制作です。内容は、秋田県北部にある大館盆地の南東部に位置する比内町。全国に出荷される比内地鶏はその味のよさで高い支持を受け続けている。名もない地鶏を全国屈指の名鶏に育てあげた影の立役者たちに密着し、ブランドチキンの裏側に迫る、というものです。

 先ほど紹介しました当社制作の「銀幕のイーハトーヴ」もそうですが、東北6県の系列各局が番組を制作して、それを放送し合うという、系列東北ブロックソフト開発番組「P6」の作品です。またネット番組につきましては、改編期恒例の期末期首スペシャルが3月17日から編成されております。詳しくはお配りした資料をご覧ください。以上です。

増子委員長

 番組編成について質問などございませんか。

及川副委員長

 「銀幕のイーハトーヴ」ですが、素晴らしい企画だと思います。見るのが楽しみです。この時期に「P6」番組が多く編成されるのには理由があるのですか。

河邊業務局長

 1年間取材をしますと、どうしてもこの時期に放送が重なる傾向がございます。だいたい今時期に各社から企画を募集しまして、3月頃に出揃いまして、それから制作という段取りになりますので。

及川副委員長

 これはプログレス賞の候補作品になるんでしょうね。

河邊業務局長

 はい。去年はP6の第1回作品の小岩井農場をプログレス賞に出させて頂きまして、「銀幕のイーハトーヴ」が第2弾ということになります。

増子委員長

 秋田朝日放送のP6の「ピルナイ」って何ですか。

及川副委員長

 アイヌ語からきているのではないでしょうか。

吉田報道部長

 「ピルナイ」とはアイヌ語で水が非常に綺麗な沢という意味だと聞いております。

増子委員長

 他にご意見はございますか。それでは合評にはいります。宮野さんからお願いします。

宮野委員

 はい、この番組はきちんと見させて頂きました。

 湯田町は北上地方振興局の管内で、北上振興局長が湯田地方の振興に力を入れておりまして、折に触れて、湯田地方の雪利用や熱利用、環境整備等々についておっしゃっておりましたので、最初から非常に楽しみにして見させて頂きました。一言で言えば「懐かしい風景だな」と。放送時間帯と、ゆったりと流れる番組のコンセプトとのギャップは感じましたが、私の年代で小さい頃に田舎で育った者にとっては、非常に懐かしい風景でありました。高橋喜平さんも暫らくぶりで見まして、お元気で何よりだなと思いました。また椎名誠さんは、昔は違う印象で見ていたのですが、年輪を重ねたかなと感じまして、落ち着いていましたね。県政番組としては非常に優良な番組だと思います。

 内容に関しては、湯田地方の特徴がとても良く出ていました。「がんばらない宣言」とありますが、今の時代の流れに沿って生活をするのは非常に簡単で、がんばらなくても生きて行けるのですが、あのように時代に相反するような形で、昔のものを大切にしよう、これからも大切にして行こうと思えば、むしろがんばらなければ、やっていけないかなという思いでいました。この番組を見まして、世間では環境問題云々と言っておりますが、岩手はまだ大丈夫かなとほっとさせられる良い番組でした。そう思っていましたら、翌日の「素敵な宇宙船地球号」でシンガポールの水事情を取り上げておりましたね。下水を処理してろ過して飲料水にするような装置を考えていると。これを見ていましたら、「がんばらない宣言」の湯田の雪まくりの風景が思い出されまして、岩手はまだまだ良いなと思った次第です。落ち着いた、環境を配慮した番組は岩手県民は好きだと思います。ですからもっと宣伝して欲しかったなと思いました。

 しかし、この番組の裏番組で、小田和正さんのライブをやっていましたね。「がんばらない宣言」を皆に見せようと思うならば、これからは編成する時間帯をもっと考えても良いのかなと思います。私も本心を言えば、この合評がなければライブを見たと思いますから、放送時間帯をもう少し考えれば、落ち着いた良い番組だったと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは松本さんお願いします。

松本委員

 今、宮野さんの話を聞いてなるほどと思ったことがあります。

 この番組はゆったりと時間が流れるといいますか、まるで時間の気忙しさが止まったような雰囲気が全編に渡って漂っておりまして、心地良い番組だったなと思うのですが、「がんばらない宣言」というフレーズ自体が大変に印象的なだけに、「がんばらない宣言」を前面に打ち出して番組作りをするのであれば、もっと普通に生活をしている人の日常を淡々と取り上げる方法もあったのではと思いながら見ておりました。と言いますのは、先ほど宮野さんもおっしゃったように、今の時代に、昔ながらの生活を続けようと思うならば、がんばらなくては保てない、自然環境もがんばらなくては保てない時代です。その中で高橋喜平さんも瀬川強さんも、特に瀬川さんは個人的に存じ上げておりますが、大変な事をやっている割には淡々として、肩に力も入っていないし、にぎり拳を振り上げて環境問題を取り組むという人でもなくて、本当に穏やかにがんばらなく、非常に素晴らしいことをしている人ではありますが、やはりがんばらなくては、この風景は保てないものだろうなと。何といいますか、タイトルと出演なさった方々が日々なさっている事の、実は大変な事とのギャップを感じました。宮野さんがおっしゃっていたような意味まで込めて、実は隠れたメッセージまで込められた番組だったのかしらと思えば、大変にまた奥が深い番組だったのだなと思うことが、今、宮野さんの発言を聞いて思うことが出来ました。

 紹介された方々は岩手では名だたる人ばかりですし、高橋さんは全国でも名の知れた方ですので、ああいう方以外の、岩手の中に根を下ろして普通に日常を送っていらっしゃる方々を何気なく追いかけて一つの番組にする。それが「がんばらない宣言」のメッセージとして伝わる気もしましたし、私が想像していた「がんばらない宣言」とは若干違う感じがしました。ただし、雰囲気としては大変にゆったりと、のんびりと見せて頂いて良い番組だなと思いました。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは及川先生、お願いします。

及川副委員長

 この「がんばらない宣言」というのは、現代の支配的な風潮や価値観に対するアイロニカルな風刺的な反語的な、そういった意味合いを持っていることは何となく承知しておるわけですが、全国紙に椎名さんや岩手県知事が出て宣伝して、県外の反応が異常に強かったようですね。2万件近いアクセスが県のホームページにあったそうですが、去年の12月で打ち切ったようですね。

 しかし、我々がんばってきた岩手県民の一人として見ると、「がんばらない宣言」の持つ意味合いといいますか、特にイメージが明瞭とならないですね。そこがこの番組でどう明確化されるかという期待がありましたし、冒頭のナレーションで『がんばらないの実践者はどういう人々なのでしょう。』とありまして、しかも舞台は西和賀地方という、私の著書でも深く関わったのでよく知っている、非常にがんばってあの地域を創り出した人々がたくさんおられる、そういう地域でして、そういったがんばりとの対比でも、現在の「がんばらない」という言葉の持つ意味がはっきりと見えてくるのではないかという期待と興味を持って見たわけです。

 総体としては、雪景色が大変美しく撮られておりましたし、小見出し的なタイトルを黒文字で出しその一箇所だけに赤を入れるという、なかなか見易くまた気の利いた手法なども取り入れて、とても良い画面を作り出していると思いました。ですからコマーシャルになると画面が汚らしくなりまして、あの雪景色の美しさが汚されていくような感じさえ抱いたわけです。それ自体、計算したわけではないでしょうが、何か象徴的で最も西和賀らしい冬をカメラが良く捉えていたと思います。

 ですが「がんばらない」の意味合いが鮮明に描かれていたかと言うと、総体としては率直に言ってどこか食い足りなさが残ったと言わざるを得ないのです。その美しい画面作りと共に構成はなかなか良く出来ていたと思います。冒頭の湯田の部分では、温泉の持つ力とか、豪雪をもいまや苦にせず逆に利用したり、楽しみに変換したり、また一方では伝統的な保存食をよく守ったりしている。そこに生きている人の姿を丁寧に捉えている構成は良く出来ていたと思います。

 沢内村の部分については、ヘキショウジの雪やマタギ、生活民具などを随分集めた博物館があるわけですが、そこに喜平さんと瀬川さんを登場させて、案内役の高橋政彦さんも大変に一生懸命な働きを見せて、しかも川舟の古民家の囲炉裏という場も作り出して、更に和賀岳直下の雪中体験なども取り入れ、そこに冬以外の風物も典型として取り込みながら、かなり良く出来た構成だったと思うんです。

 しかし「がんばらない」という意味、そういった生き方、態度価値のようなものはどうも明確にならないのがちょっと残念だったなと。椎名誠さん自身は言っていますね。『いわてに来るとほっとした時間を持てる。こういう風景が「がんばらない」風景だと思う。いわてのしみじみした良い空間を大事に育てていって欲しい。』これだけでは何か物足りない。彼のゆったりとした、別の言い方をすればモッサリした、過度に感情を表現したりぺらぺら語らない態度というのは、それなりに深い味わいを出しているわけですが、「がんばらない」という所に深く食い込んでいく言葉としては、もう少し欲しかったように私は思います。瀬川さんが雪椿を取り上げて、植物の持っている柔軟性のようなもの、がんばれば枯れてしまう言い方で、「がんばらない」ということと結びつける発言がありましたが、植物の習性に結びつけるだけでは不十分じゃないかなと思いました。「がんばらない」ということの現代的なイメージや意味合いを明確にするという点では、ちょっと平板すぎたという気がします。

 県のホームページを見ますといわて流「がんばらない」の意味があるんですね。『より人間的に、よりナチュラルに、素顔のままで新世紀を歩き始めましょう。それがいわての理想とする「がんばらない」姿勢です。例えば深い森を切って最先端デザインのビルを建てるのではなく、濃厚な森羅万象に調和した木造りの民家を守ってこそ、いわてらしいのではないか…。そんな共生の意識こそがいわて流「がんばらない」なのです。』という、これはかなり限定していますが、ある程度「がんばらない」の意味を自ら言っていますね。こういったものを番組のどこかに文字として置いて見せて、実際にがんばらない生き様を示している人々を紹介したらば、もう少し分かり易くなったのではと思います。

 たくさんの反響があったとはいえ、まだまだ知らない人たちがいますね。岩手県内の人でもよく分からない、県外の人は「がんばれ、がんばれ」でやってきた時代の中で「がんばらない」という、それに惹かれた部分があるのかも知れません。知らない人たちにも分からせる為にも、その辺りはもっと丁寧でも良かったと思います。

 椎名さんと増田知事が対談して、最後に増田知事が「はい、がんばります。」で終わって大笑いになっていますよね。つまり、今もご意見が出ていましたが、がんばらなければ残すことが出来ない、人間的にがんばるという意味と、利益至上でがんばりそして何かを壊していくというがんばり方の否定の意味での「がんばらない」。そこら辺りだろうとは思うのですが、もう少し「いわてがんばらない宣言」の意味合いをイメージとしてもくっきりさせていく必要があると思います。そしてこれは「Yui」という県政番組ですから、これからの課題として大いに、それこそがんばって頂きたいなと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは大坊さんお願いします。

大坊委員

 この番組を純粋に見ておりまして、タイトルの「いわてがんばらない宣言」そのものだなと思いました。視聴者もこの番組から心の癒しを感じ取ったと思います。椎名誠さんのとても豊富な知識と体験の中から滲み出る表情や言葉、一つ一つをゆっくりと話す、それが心に染み渡ってきて、とても良いなと思いながら見ました。案内役の高橋政彦さんの朴とつとした物腰も、椎名さんとの言葉のキャッチボールの中で、すごく合っているなと思いました。そして、沢内村や湯田町を番組の主役として選んだことも良かったと思います。温泉が豊富に湧き出て、それをうまく生活に生かしている場面が随所に出ていましたね。暮らしている人々の暖かさが滲み出ているのを感じて、心が洗われた気がしました。

 ただし、湯田町としてはPRしたかったのでしょうが、雪遊びする大人たちということで、湯田町の雪合戦協会の皆さんの練習風景がありましたが、これが「がんばらない宣言」の内容としてふさわしいのかな、ちょっと違ったような気がしました。というのは皆さん優秀なんですね。フィンランドの世界大会で4回も連続優勝しているということで。本当に素晴らしいことなんだけども、そこまで辿り着くには、やはりがんばらなければ、それだけの成績は収められないですから。ですから「がんばらない」という内容にふさわしいのかなと疑問でした。

 それから、高橋喜平さんのお話と写真、特に雪まくりや雪ひも、雪レース、雪えくぼといったものは写真を見て説明を受けないと、なかなか理解できませんが、しっかりと映像で見せてもらいましたので、番組を見ていた方も、とても満足できたと思います。私も数十年前、熊撃ちをしたことがあるのですが、その時に雪まくりや雪ひも、雪レースといった風景は見たことがありまして、ただ単純に綺麗だなと思いました。その時はそういった言葉を知りませんでしたから。ですからこれらの言葉を聴いた時、その時の見た風景が思い出されました。名前って大切なんだなと、そして実際の風景とマッチングするとなお感銘するんだなと思いながら見ていました。

 それから、囲炉裏を囲んで皆さんで語る場面がありましたが、この場面をもっと長く撮ったら、もっと「がんばらない宣言」らしかったのかなと思います。いずれ本当に素晴らしい良い番組だったと思います。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは松尾さん、お願いします。

松尾委員

 やはり全般的にセンスの良いまとめ方だったと思います。雪景色の中、レールを映しながら電車の一番前に乗っている視点から始まって、電車内の乗客と写真を撮ったりという旅人の雰囲気がまずよく出ていたと思います。先ほどもありましたが、白い背景に黒文字と赤文字を使用して、各章のタイトルを表現した辺りもセンスがいいなと思いました。ラストも番組で紹介してきたものをフラッシュバックで出して、なかなか良かったです。番組中に椎名誠さんが写真を撮るシーンが結構多く出てきて、それが最後に3枚ほど白黒で紹介されましたが、もう少しあっても良かったと思いました。ナレーションが最初は山田アナウンサーで始まって、途中から高橋政彦さんに代わりましたが、あの方はナレーションに関しては素人さんですよね。何か覚えがあるのでしょうか。非常に味があってとても良いナレーションでした。

 それから、食材や料理を各種紹介していましたが、食べるシーンが案外少なくて物足りなかったです。「がんばらない宣言」については、雪椿や雪の下の雑草の例などを掲げて説明しておりましたが、何だか般若心経みたいだなと思いました。例えば、古いものを次世代に残すこととか、豪雪地帯での生活というのは確かに大変で、行為としてはがんばらなくては出来ない作業なのです。しかし般若心経が言うところには、あるものをあるがままに受け止める。物理的なことではなくて精神的なことなのです。豪雪地帯の冬は寒いし雪は多いし、雪が降れば雪掻きをしなくてはいけない、それは大変な事なのだけれど、冬なのだから寒くて当たり前、年に何度かは雪掻きしなくてはいけないのは当たり前なのだと、自分の心の中で思うことによって、思わないよりも自分の負担やストレスが軽くなるんです。自分を取り巻く自然環境も勿論ですが、人間関係も当然、そういった気持ちで接することによってストレスが減少する、そういったことを般若心経では言っておりまして、繋がるなと思って見ました。

 椎名誠さんは、番組の後半、森に入って行ってからキャラクターの本領を発揮していたかなと思います。そして、雪が積もったからこそこの森の中には入って行けるのであって、夏場は草が生い茂って入れませんよという話を聞いた彼は、『アマゾンの雨季のジャングルと同じだ。』と言うコメントをしていまして、豪雪地帯とアマゾンという正反対の環境ではありますが、意外な共通性を示していました。深読みかも知れませんが、がんばらない生活というのは西和賀地方特有の精神ではなくて、どういった環境下でも気持ちの持ちようによって出来るのだということをアンユウしているのかなと思いました。その辺りについて、見終わってから考えさせられる番組だったと思います。

 それから、この番組は岩手県内だけでの放送なのでしょうか。是非、他県でも見て頂きたい番組だと思いますので、椎名誠という全国的に知名度の高い人も出ていますし、機会があったら県外に紹介して頂きたいと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは笠川さん、お願いします。

笠川委員

 湯田、沢内という場所は年に何度か通り過ぎることはあっても、私にとっては、わざわざ行く場所でもありませんでした。温泉や砂風呂、スッポンなどは知っていましたが、消雪溝は良いなと思ったり、雪合戦の大会があるのは知っていましたが、国際大会で4連覇しているのは初めて知りましたから、番組を見て、やっぱりがんばっているんだなと思いました。

 がんばり過ぎるとガムシャラになって長続きしないし、達成感はあるにしても、その過程は楽しくないと思うんです。雪合戦をする大人たちは、楽しいからやっているのであってがんばっている訳ではないのかなと思ってみたり。そして時間をかけて受け継いできた伝統は、時間をかけて伝えていけば良いのだから、今がんばって外に何かを発信するとか、一生懸命伝えようといった感じがしない、地域の女性たちの漬物などの保存食にしても。ゆっくりと時間が流れて、そのうちに何かが伝われば良いという感じで「がんばらない宣言」なのかなと思ったりもしました。

 この番組は15時台の放送でしたが、映像から受ける、古い家屋の色や、雪に閉ざされた生活の色、それから雪遊びをする時の夜空の色といった、伝わってくる空気のようなものを考えると、出来れば日が暮れる時間帯であれば、画面と視聴者との一体感が得られたというか、空気の伝わり方がもう少し違ったのではないかなと思ったりもして、何か勿体無いかなと思って見ました。

 それから、番組があまりにも淡々と進みすぎて、見ている途中で、あと何分で終わるのかなと思う瞬間がありました。椎名さんのボソボソとした喋りも良いのですが、何か番組に盛り上がりがあれば、1時間飽きずに見られたかなと思います。しかし全体を通してみますと、この番組は岩手県内だけでの放送ではなくて、県外の方にも見て頂きたい番組だったと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。私もコメントさせて頂きたいと思います。

 以前、この審議会で「Yui」を審議したとき、私は厳しい批評をした記憶がありますが、通常の「Yui」の番組スタッフと同じスタッフが作った番組なのですか。

吉田報道制作部長

 はい、そうです。

増子委員長

 「がんばらない宣言」を見ながら、スタッフはどこで化けたのかと思うくらい感動しましたね。映像が本当に美しくて、最初から最後まで美しい、素晴らしい映像だったと思います。「がんばらない宣言」というタイトルについては、番組中で「がんばらない宣言」に無理にこじつけるような、妙な解説がどうせ出てくるんだろうと思っていたら、それが無かった。このタイトルに制約されて番組がかなり作りにくいだろうという感じを受けたのだけど、皆さんの話を聞いているうちに「がんばらない宣言」はそれぞれに解釈すれば良いのだなと感じました。

 淡々と進んで行く番組ですが、私自身、この番組を見ているうちに自分の人生って貧しいなというか、いろいろな事を考えさせられました。その時に、そこに「がんばらない宣言」というものがあると、そういったことを考えるひとつの触媒になるということで、あって良かったなという気もしました。所詮、「がんばらない宣言」というタイトルをどう解釈してもキリがないことで、県の解釈にしても陳腐といえば陳腐なものですし。だからそれぞれに解釈をしてもらう、放り出す、そういった作りで良かったという気がします。

 それから番組が静かに流れすぎで間がもたなかったという意見、これは笠川さんと私の年の差だと思って伺っておりました。私は淡々と静かにボソボソと流れていくというのが、例えようもなく良かった。ですから皆さん今のテレビの全般的な作り方に毒されているというか、番組には山があって谷があって、どこかに大きな声が入って。そうでないとどうも見た気がしないという。もう一度原点に立ち返るという意味で、私はこういった作りの方が好きです。非常に新鮮な感じがしました。それから、岩手県外にも放送して欲しいという意見もありましたね。つまり「Yui」は県政番組なので県内向けに作られていますよね。勿体無いなと思って見ました。理屈抜きにして感動する人が沢山いる番組だと思うんです。県内向けという枠があったとしても、全国ネットにのせても十分に鑑賞に堪え得る作品だと思います。私は、夏にはこの地域の和賀川で釣りをするので行ったことがあります。夏の風景も、山が深くて、岩手県ってこんな風景があっていいなと思いながら釣りをしますが、冬の景色もそれとは別にまた美しいですね。番組を見終わって、自然に「行ってみたいな」という声が出ました。

 もっとご意見がある方、どうぞ。

宮野委員

 「Yui」は審議に関わらず見られる限りは見る番組ですが、県の言いたいこと、意図は何かなと思って見ています。各地方振興局別に地域をPRしたいのか、ですからどうぞいらして下さいなのか、ですから住んでみませんかと言いたいのか、ちょっと捉えどころがないといつも思っているんです。

 私は仕事柄、岩手県内は58市町村を四季を関係なく歩いておりますが、今回は沢内と湯田という、冬に行くと岩手県ではいちばん大変な地域で、景色とは裏腹に死ぬ思いをしたこともある地域だという気もしなくもなかったのですが。今でこそ銀河高原ですとか様々ありますが、それまでは何もない道路でして、その裏に隠された様々なものを今回番組で見て、やっとこういうところかと、でも私は行きたいとは思わないなと。

 でも増子先生のように、あの番組を見て「行きたいな」と思う人がいるのであれば、そういった受け皿を作るための県政番組だという気もしますので、受け皿も出来つつあるので、それを目的とするのならば、そういった視聴者の声をもっと行政に上げるといったことをしなくては、と常日頃思っています。一般庶民と行政のギャップの架け橋になるのが、テレビなどのマスコミの役目だと思っていますので、ここだけで審議するのではなく、県に意見を上げる機会があればいいなと思います。県政番組のあり方をもっと考えるべきだと思います。また県外で「がんばらない宣言」を発した場合、沢内・湯田を見て岩手県であると思われるのも大変かなという気も実はあって、とても構成が難しいと思います。良い点は分かるのですが、私達が思う良い点と、また違った見解もあるので、非常に考えさせられる企画だったと思います。

松本委員

 県政番組を制作しているのは、岩手朝日テレビとテレビ岩手しかありませんが、県政番組を審議した結果を、県に戻す機会はありますか。

吉田報道制作部長

 前回の「Yui」の場合も、議事録等々、県の公聴広報には伝えております。非常に貴重なご意見として、県側も捉えられているようです。

及川副委員長

 「Yui」は例えば県知事の個人的な正論や、県の高級官僚がのさばり出て宣伝するといったことが、自己抑制的に隠されている番組ですよね。大事な知らせるべきことは入るけれども、かなり県政の宣伝臭がない作り方をしている、そういった点では好感を持って見て参りました。

 この「がんばらない宣言」というのは、一昨年、読売や朝日といった大きな新聞に椎名さんや知事が出て、かなりの反響もあった。けれども県議会の中では首をかしげる議員さんもいたわけです。特に沢内となると、安政時代は罪人を流した、陸の孤島、天牢獄雪(テンロウゴクセツ)という言葉がありますが、雪の獄舎といわれたような。そこで戦後、冬季交通網を確保して自分たちで生命を守った村として、日本で最初に乳幼児死亡率ゼロを実現する、60歳以上の高齢者の医療費の10割給付を今でも堅持しているという、そういったがんばりの中でかつては難儀だけだった雪、耐えるだけだった雪を逆に活かして、親しんで遊んでというふうに、がんばった末にそういった豊かな発想が生まれてきたということがあります。

 少しでも岩手のことを知っている人ならば、西和賀・沢内を舞台にしたとなれば、現在に至る歴史はチラッと頭をかすめると思います。そういう時に「がんばらない」という新しい価値観が…ですから舞台としては非常に良かったと思います。ですが、いまいちという私の思いは、「がんばる」ことは人間として非常に大事なモラルのようなものとして染み込んでいるわけですが、それに対して「がんばらない」というのは言葉自体、否定的、反語的ですよね。だから何だろうと食いつくのですが、そこではっきりと分からなかった、私が期待しすぎたのかもしれませんが。味わいとしては、日本でも有数の豪雪地帯で生きている人たちをたっぷりと味わって見ることが出来ました。前半はそこに生きている人たちの風景や生活景がありましたが、後半はお話だけで雪中のトレッキングの場面で生きてくるのですが、あまりお話だけになってくると生活景が具体的に見えなくなる。高橋さんがいくら説明しても、椎名さんの反応がいまいちで、という部分がありましたから。悲惨な生活景ではあったのですが、そういった点がもう少し出れば面白かったと思います。

増子委員長

 確かに私のコメントは、旅人のコメントなんですよね。やはり、この地で暮らしている人たちのものとは全く別になると思います。ただ、そういった制約は抜きにして、私は敢えて県の担当者に伝えて欲しいのですが、この番組は県政番組の傑作のひとつになると思うのです。つまり、ストレートなスローガンばかりを出すのが県政番組ではないのだと。様々な形があるのだということを、県の担当者に言ってあげたほうが良いと思うのです。確かに及川先生のお話を聞くと、そういった歴史に触れていないのは何だというのは、よく分かりますね。

及川副委員長

 それを描けというのではなくて、岩手県民は、特に沢内と言えば典型的な場所として知っていますから、余計に「がんばる」と「がんばらない」の対比を読み取りたいみたいなところが出てくると思うんです。「がんばらない宣言」の最初の広告は、総務省の全国地域情報発信事業を活用してうったらしいのですが、第一弾で椎名さんが『常にがんばっていないと不安になる。そんなの変だぜ、現代人諸君』と呼び掛けています。何かに追い立てられるように、我々は常に何かを発していなければならないようながんばり方、そういったことがやはり『おかしいぜ』というところがある。そういう言葉が作品の中にあって、そこで椎名さんのボサッとした態度、鷹揚な対応が繋がると「がんばらない」ことの人間的な意味合いが、より鮮明になると思います。

増子委員長

 「がんばらない」というのは、どちらかと言えばやはり都会人の発想ですよね。椎名さんがこういう言葉を吐くというのは。都会で暮らしてくたびれ果てている人たちからはこういう言葉がスッと出てくるという。

及川副委員長

 優秀なコピーライターの発想ですね。

増子委員長

 その通りですね。それから民具の博物館も圧倒されましたね。一部ちらっと見ただけですが、ああいった博物館はよくありますが、あれほどのスケールのものは、そうそう無いですよね。

吉田報道制作部長

 建物が5つありまして、建物ごとにテーマがあります。

及川副委員長

 盛岡の人は、あれを集めた和尚さんのことを「からす」と呼びますよね。何でも集めるから。コインやらマッチのラベルやら、様々なものがあの博物館にはあります。

増子委員長

 あの博物館にテーマを絞っても番組がひとつ出来そうですよね。

及川副委員長

 雪景がとても綺麗に撮れていましたね。北海道テレビが昨年制作したドラマを見て雪景がとても綺麗だと思いましたが、この番組も実に綺麗な画面でした。

 この番組はやはり岩手だけでの放送ですか。

川崎社長

 今回は岩手だけでの放送でしたが、今日の皆さんのご意見を編成業務の担当へ伝えまして、番組としての販売を積極的にやって貰おうと考えております。

松本委員

 番組のバックに流れていた音楽ですが、様々なジャンルのものが流れていたと記憶しておりますが、あれはわざとですか。

吉田報道制作部長

 今回、音響だけは仙台の業者に依頼したのですが、アフリカの民族音楽などを選曲してみたようです。

増子委員長

 私も音楽について触れようと思って忘れていましたが、チグハグなようで妙にマッチしていたという、不思議な感じがする音楽でしたね。

及川副委員長

 音楽は良かったですね。

増子委員長

 そうですね。いかがですか、ほかに何かご意見はございますか。

及川副委員長

 合評からは離れますが、アリューシャンのアッツ島での軍医のドキュメント番組を見ました。90分と長い番組でしたが、とても良かったと思いました。ただ2箇所ほど、緒形直人さんの朗読で言葉が間違っていましたね。「三角兵舎(サンカクヘイシャ)」というのを「ミスミヘイシャ」と読んでいましたね。それから「夜暗(ヤアン)」というのを「ヨグラ」と読んでいました。明らかな間違いで、テロップが出るから余計に間違いが目立ちましたね。ああいったものは予め番組スタッフが脚本にルビをふってやるなりしたら良かったですね。ちょっと恥ずかしい間違いでしたから。

川崎社長

 確認してみないと分かりませんが、担当するディレクターも三角兵舎なんて言葉を知らない世代がやっている可能性がありますね。

及川副委員長

 こういった間違いは、良い番組だっただけに、しかも朗読も全体として良かっただけに残念ですね。

 それから「がんばる」もあらためて辞書を引いてみましたら、我々は普通「頑張る」と書きますが、眼を張ること「眼張る」なんですね。それから語源は「我を張る、我に張る」なんです。それが今や「頑張る」ですね、ワープロもそうですが。ですから、人間がきちんと眼を張ってよく物事を見て、しっかりやっていくという意味合いだったものが、何かこう、余計に肩に力が入るような「頑張る」になってしまったわけです。

増子委員長

 よろしゅうございますか。それでは次回の開催についてお願いします。

末吉事務局長

 次回は3月27日、合評番組は「銀幕のイーハトーヴ」です。

増子委員長

 それでは本日の審議会を終了します。ありがとうございました。 

7.審議機関の答申または改善意見に対してとった措置

特になし

8.審議機関の答申または意見の概要の公表

朝日新聞岩手県版に審議概要を掲載。

系列各局に議事録を送付。

本社受付に議事録を常備、閲覧に供す。

インターネットホームページに掲載。

9.その他の参考事項

特になし

10.配布資料

◎ 3月度単発番組編成予定表

◎ 期末期首編成予定表

議事録

1.    平成 15年2月27日(木)午前11時~

2.    岩手朝日テレビ本社・会議室

3.委員の出席

委員総数    10名

出席委員数  7名

委員長      増子 義孝 

副委員長     及川 和男

委員       笠川 さゆり

委員       大坊 忠

委員       松尾 正弘

委員       松本 直子

委員       宮野 裕子

欠席委員数  3名

委員       石井 三郎

委員       植本 花子

委員       小川口 柳太郎

会社側出席者名

代表取締役社長    川崎 道生

代表取締役専務    村上 昇

取締役営業本部長補佐 横舘 英雄

取締役業務局長    河邊 喬

報道制作局部長    吉田 孝幸

技術局長       山口 孝

番組審議会事務局長  末吉 正憲

4.議題

(1)3月の番組編成について

(2)番組合評

  「Yuiスペシャル 椎名誠がんばらない宣言いわて」について

(3)次回の審議会

開 催 日:平成15年3月27日(木)

合評課題:「銀幕のイーハトーヴ~岩手・映画の大地~」

(4)その他

5.概要

「Yuiスペシャル 椎名誠がんばらない宣言いわて」について

*時がゆったりと流れ、ほっとさせられる、いい番組だった。

*非常に懐かしい風景がふんだんに出てきてよかった。

*環境問題がいろいろいわれるが、岩手県はまだまだ自然が残っており、ホッとさせられる番組だった。

*「がんばらない」というが、われわれがんばってきた県民にとって、イメージがもうひとつ鮮明にならない気がした。

*椎名さんのゆったりとした話し方、高橋政彦さんの朴訥な話し方、ゆったりとした番組の進み方。視聴者は、癒しを感じたのではないか。

*高橋喜平さんの写真に出てくる「雪まくり」「雪えくぼ」「雪レース」など、かつて単にきれいとしか感じなかったものに名前が付いて、感激した。

*囲炉裏を囲んで談笑する場面があったが、もう少し食べるシーンがあってもよかったかな。

*「がんばらない宣言」を前面に打ち出すとすれば、普通に生活している人の日常を淡々と取り上げる方法もあったのではないか。

*雪椿や雪に埋もれた雑草が出てきたが、般若心経を思い出した。豪雪地帯の生活は確かに大変だが、般若心経のいうところは、あるものをあるがままに受け止める。物理的なことではなく精神的なことです。雪が積もると、雪かきをしなければいけない。冬だから寒くて当たり前。自分の心の中でそう思うことが、思わないよりもストレスが減少する。そんなことを般若心経は言っています。

*古い家屋の色や雪に閉ざされた生活の色など、できれば15時台の時間帯ではなく、日が暮れる時間帯であれば、画面と視聴者の一体感がもっと得られたのではないか。

*映像が本当に美しく、素晴らしかった。

*「がんばらない宣言」というタイトルについては、無理にこじつけるような解説か何かが出てくると思ったが、それがなくてよかった。みなさんの話を聞いていて「がんばらない宣言」はそれぞれ解釈すればいいと思った。

*いい番組だったし、県外の人にも見てほしいと思った。

6.議事の内容

末吉事務局長

 第65回番組審議会を開催致します。初めに川崎社長よりご挨拶申し上げます。

川崎社長

 お忙しい中、お集まり頂きましてありがとうございます。来月、年度末を迎えますので、社内では営業等々の収支を含めて詰めをしている最中でございますが、ご多分に漏れず非常に厳しい状況でございます。常日頃、心がけているつもりですが、出来るだけ経費等々を可能な限り削減しながら対応していこうと、社の運営に関しては考えております。

 先週、ANN系列社長会が東京で催されまして、そこでいくつかの話題が出ましたが、今月総務省が発表しましたマスコミの集中配慮の緩和策も話題になりました。これにつきましては我々も勉強を重ねていこうと考えております。それから、先月の審議会でも話題になりました消費者金融のコマーシャルについて一言。消費者金融のコマーシャルについては、「放送と青少年に関する委員会」に対して、民間の団体から自粛の申し入れが折に触れて出ております。最近は、17時から21時の時間帯に流すことを廃止すべきという申し入れが民放連に提出されております。社によって若干の差異はありますが、現在、テレビで扱っている消費者金融は大手6社が中心です。この6社は法定利息の中に十分納まる形をとっており、基本的に問題ないというのが、民放各社の検討結果です。しかし、この申し入れは大手6社以外の、膨大な利息をとったりする所も同等に考えておられるようです。ですのでその整備がなされていないということで、民放各社も対応に苦慮しているようです。非公式に大手6社と各局は話し合いをしておるようですが、消費者金融側は、自分たちは市民権を得ていると自負しておりまして、コマーシャルを廃止するということは、表現の自由にも関わってくる問題ではないかと捉えておられます。この問題は非常に難しいのですが、テレビ朝日の広瀬社長は、今夏までには何らかの方向性を打ち出さなくてはいけないとおっしゃっておりましたので、対応策はこの先論議が深まる状況にあります。つまり全廃することは無理ですが、何らかの手立てを打つことが一つのポイントになってきております。以上でござまいす。本日もよろしくお願いいたします。

末吉事務局長

 ありがとうございます。それでは議事の進行、増子委員長お願いいたします。

増子委員長

 3月の番組編成についてご説明をお願いします。

河邊業務局長

 レギュラー番組については特に変更はございませんので、単発番組について説明させて頂きます。3月もIAT制作番組および系列局が制作した番組が多く編成されております。

 まずは3月1日(土)「カリガネが舞う空~立松和平 中国大湿原に幻の鳥を追う~」。東日本放送制作です。かつては万葉集に詠まれるほど身近でしたが、今では年に10羽程度しか確認されない渡り鳥のカリガネ。国際自然保護連合の絶滅危惧Ⅱ類に指定されたこのカリガネを追って、立松和平が中国湖南省の洞庭湖へ向かい、日本では幻となったカリガネを通して、湿原の明日を見つめるという内容です。

 そして3月4日(火)19:00から54分枠で「銀幕のイーハトーヴ~岩手・映画の大地~」。当社制作の番組でございます。ナレーターは寺尾聰、出演は山田洋次、丘みつ子ほか。過去、幾多の名作映画のモチーフになってきた岩手県でございますが、番組では、岩手でロケされた映画作品を振り返りながら、その撮影に関わった人々の証言を集め、「映画」という大きな存在が人々の心に残した様々な足跡を辿っていく、映画が盛んな土地といわれる岩手の姿を改めて探っていきます。名匠山田洋次監督が葛巻町でロケを行いました「イーハトーヴの赤い屋根」に出演しました女優の丘みつ子さんを25年ぶりにお呼びしまして、当時、子役で出演した方々と対談して頂いて、当時を振り返って頂くというシーンもございます。また、盛岡映画館通りやミステリー映画祭、映画のロケ地としてよく使われる江刺市の藤原の里や、盛岡広域フィルムコミッションの活動などを盛り込んで番組を構成しております。次回の審議会の合評番組でもありますので、是非ご覧ください。

 3月22日(土)「裏磐梯を創った男たち」。福島放送制作です。内容は、1888年の磐梯山の噴火後、北側にあたる裏磐梯一帯は荒廃の原野と化した。手付かずの荒地が十数年続いた後、国は裏磐梯を民間の資本と労力で開拓緑化する計画を立てた――。屈指の観光地である裏磐梯の景観を創るため、私財を投げ打って尽力し、泥流地に緑を甦らせた男たちの人生を検証します。

 3月29日(土)「比内地鶏はピルナイの恵み」。こちらは秋田朝日放送制作です。内容は、秋田県北部にある大館盆地の南東部に位置する比内町。全国に出荷される比内地鶏はその味のよさで高い支持を受け続けている。名もない地鶏を全国屈指の名鶏に育てあげた影の立役者たちに密着し、ブランドチキンの裏側に迫る、というものです。

 先ほど紹介しました当社制作の「銀幕のイーハトーヴ」もそうですが、東北6県の系列各局が番組を制作して、それを放送し合うという、系列東北ブロックソフト開発番組「P6」の作品です。またネット番組につきましては、改編期恒例の期末期首スペシャルが3月17日から編成されております。詳しくはお配りした資料をご覧ください。以上です。

増子委員長

 番組編成について質問などございませんか。

及川副委員長

 「銀幕のイーハトーヴ」ですが、素晴らしい企画だと思います。見るのが楽しみです。この時期に「P6」番組が多く編成されるのには理由があるのですか。

河邊業務局長

 1年間取材をしますと、どうしてもこの時期に放送が重なる傾向がございます。だいたい今時期に各社から企画を募集しまして、3月頃に出揃いまして、それから制作という段取りになりますので。

及川副委員長

 これはプログレス賞の候補作品になるんでしょうね。

河邊業務局長

 はい。去年はP6の第1回作品の小岩井農場をプログレス賞に出させて頂きまして、「銀幕のイーハトーヴ」が第2弾ということになります。

増子委員長

 秋田朝日放送のP6の「ピルナイ」って何ですか。

及川副委員長

 アイヌ語からきているのではないでしょうか。

吉田報道部長

 「ピルナイ」とはアイヌ語で水が非常に綺麗な沢という意味だと聞いております。

増子委員長

 他にご意見はございますか。それでは合評にはいります。宮野さんからお願いします。

宮野委員

 はい、この番組はきちんと見させて頂きました。

 湯田町は北上地方振興局の管内で、北上振興局長が湯田地方の振興に力を入れておりまして、折に触れて、湯田地方の雪利用や熱利用、環境整備等々についておっしゃっておりましたので、最初から非常に楽しみにして見させて頂きました。一言で言えば「懐かしい風景だな」と。放送時間帯と、ゆったりと流れる番組のコンセプトとのギャップは感じましたが、私の年代で小さい頃に田舎で育った者にとっては、非常に懐かしい風景でありました。高橋喜平さんも暫らくぶりで見まして、お元気で何よりだなと思いました。また椎名誠さんは、昔は違う印象で見ていたのですが、年輪を重ねたかなと感じまして、落ち着いていましたね。県政番組としては非常に優良な番組だと思います。

 内容に関しては、湯田地方の特徴がとても良く出ていました。「がんばらない宣言」とありますが、今の時代の流れに沿って生活をするのは非常に簡単で、がんばらなくても生きて行けるのですが、あのように時代に相反するような形で、昔のものを大切にしよう、これからも大切にして行こうと思えば、むしろがんばらなければ、やっていけないかなという思いでいました。この番組を見まして、世間では環境問題云々と言っておりますが、岩手はまだ大丈夫かなとほっとさせられる良い番組でした。そう思っていましたら、翌日の「素敵な宇宙船地球号」でシンガポールの水事情を取り上げておりましたね。下水を処理してろ過して飲料水にするような装置を考えていると。これを見ていましたら、「がんばらない宣言」の湯田の雪まくりの風景が思い出されまして、岩手はまだまだ良いなと思った次第です。落ち着いた、環境を配慮した番組は岩手県民は好きだと思います。ですからもっと宣伝して欲しかったなと思いました。

 しかし、この番組の裏番組で、小田和正さんのライブをやっていましたね。「がんばらない宣言」を皆に見せようと思うならば、これからは編成する時間帯をもっと考えても良いのかなと思います。私も本心を言えば、この合評がなければライブを見たと思いますから、放送時間帯をもう少し考えれば、落ち着いた良い番組だったと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは松本さんお願いします。

松本委員

 今、宮野さんの話を聞いてなるほどと思ったことがあります。

 この番組はゆったりと時間が流れるといいますか、まるで時間の気忙しさが止まったような雰囲気が全編に渡って漂っておりまして、心地良い番組だったなと思うのですが、「がんばらない宣言」というフレーズ自体が大変に印象的なだけに、「がんばらない宣言」を前面に打ち出して番組作りをするのであれば、もっと普通に生活をしている人の日常を淡々と取り上げる方法もあったのではと思いながら見ておりました。と言いますのは、先ほど宮野さんもおっしゃったように、今の時代に、昔ながらの生活を続けようと思うならば、がんばらなくては保てない、自然環境もがんばらなくては保てない時代です。その中で高橋喜平さんも瀬川強さんも、特に瀬川さんは個人的に存じ上げておりますが、大変な事をやっている割には淡々として、肩に力も入っていないし、にぎり拳を振り上げて環境問題を取り組むという人でもなくて、本当に穏やかにがんばらなく、非常に素晴らしいことをしている人ではありますが、やはりがんばらなくては、この風景は保てないものだろうなと。何といいますか、タイトルと出演なさった方々が日々なさっている事の、実は大変な事とのギャップを感じました。宮野さんがおっしゃっていたような意味まで込めて、実は隠れたメッセージまで込められた番組だったのかしらと思えば、大変にまた奥が深い番組だったのだなと思うことが、今、宮野さんの発言を聞いて思うことが出来ました。

 紹介された方々は岩手では名だたる人ばかりですし、高橋さんは全国でも名の知れた方ですので、ああいう方以外の、岩手の中に根を下ろして普通に日常を送っていらっしゃる方々を何気なく追いかけて一つの番組にする。それが「がんばらない宣言」のメッセージとして伝わる気もしましたし、私が想像していた「がんばらない宣言」とは若干違う感じがしました。ただし、雰囲気としては大変にゆったりと、のんびりと見せて頂いて良い番組だなと思いました。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは及川先生、お願いします。

及川副委員長

 この「がんばらない宣言」というのは、現代の支配的な風潮や価値観に対するアイロニカルな風刺的な反語的な、そういった意味合いを持っていることは何となく承知しておるわけですが、全国紙に椎名さんや岩手県知事が出て宣伝して、県外の反応が異常に強かったようですね。2万件近いアクセスが県のホームページにあったそうですが、去年の12月で打ち切ったようですね。

 しかし、我々がんばってきた岩手県民の一人として見ると、「がんばらない宣言」の持つ意味合いといいますか、特にイメージが明瞭とならないですね。そこがこの番組でどう明確化されるかという期待がありましたし、冒頭のナレーションで『がんばらないの実践者はどういう人々なのでしょう。』とありまして、しかも舞台は西和賀地方という、私の著書でも深く関わったのでよく知っている、非常にがんばってあの地域を創り出した人々がたくさんおられる、そういう地域でして、そういったがんばりとの対比でも、現在の「がんばらない」という言葉の持つ意味がはっきりと見えてくるのではないかという期待と興味を持って見たわけです。

 総体としては、雪景色が大変美しく撮られておりましたし、小見出し的なタイトルを黒文字で出しその一箇所だけに赤を入れるという、なかなか見易くまた気の利いた手法なども取り入れて、とても良い画面を作り出していると思いました。ですからコマーシャルになると画面が汚らしくなりまして、あの雪景色の美しさが汚されていくような感じさえ抱いたわけです。それ自体、計算したわけではないでしょうが、何か象徴的で最も西和賀らしい冬をカメラが良く捉えていたと思います。

 ですが「がんばらない」の意味合いが鮮明に描かれていたかと言うと、総体としては率直に言ってどこか食い足りなさが残ったと言わざるを得ないのです。その美しい画面作りと共に構成はなかなか良く出来ていたと思います。冒頭の湯田の部分では、温泉の持つ力とか、豪雪をもいまや苦にせず逆に利用したり、楽しみに変換したり、また一方では伝統的な保存食をよく守ったりしている。そこに生きている人の姿を丁寧に捉えている構成は良く出来ていたと思います。

 沢内村の部分については、ヘキショウジの雪やマタギ、生活民具などを随分集めた博物館があるわけですが、そこに喜平さんと瀬川さんを登場させて、案内役の高橋政彦さんも大変に一生懸命な働きを見せて、しかも川舟の古民家の囲炉裏という場も作り出して、更に和賀岳直下の雪中体験なども取り入れ、そこに冬以外の風物も典型として取り込みながら、かなり良く出来た構成だったと思うんです。

 しかし「がんばらない」という意味、そういった生き方、態度価値のようなものはどうも明確にならないのがちょっと残念だったなと。椎名誠さん自身は言っていますね。『いわてに来るとほっとした時間を持てる。こういう風景が「がんばらない」風景だと思う。いわてのしみじみした良い空間を大事に育てていって欲しい。』これだけでは何か物足りない。彼のゆったりとした、別の言い方をすればモッサリした、過度に感情を表現したりぺらぺら語らない態度というのは、それなりに深い味わいを出しているわけですが、「がんばらない」という所に深く食い込んでいく言葉としては、もう少し欲しかったように私は思います。瀬川さんが雪椿を取り上げて、植物の持っている柔軟性のようなもの、がんばれば枯れてしまう言い方で、「がんばらない」ということと結びつける発言がありましたが、植物の習性に結びつけるだけでは不十分じゃないかなと思いました。「がんばらない」ということの現代的なイメージや意味合いを明確にするという点では、ちょっと平板すぎたという気がします。

 県のホームページを見ますといわて流「がんばらない」の意味があるんですね。『より人間的に、よりナチュラルに、素顔のままで新世紀を歩き始めましょう。それがいわての理想とする「がんばらない」姿勢です。例えば深い森を切って最先端デザインのビルを建てるのではなく、濃厚な森羅万象に調和した木造りの民家を守ってこそ、いわてらしいのではないか…。そんな共生の意識こそがいわて流「がんばらない」なのです。』という、これはかなり限定していますが、ある程度「がんばらない」の意味を自ら言っていますね。こういったものを番組のどこかに文字として置いて見せて、実際にがんばらない生き様を示している人々を紹介したらば、もう少し分かり易くなったのではと思います。

 たくさんの反響があったとはいえ、まだまだ知らない人たちがいますね。岩手県内の人でもよく分からない、県外の人は「がんばれ、がんばれ」でやってきた時代の中で「がんばらない」という、それに惹かれた部分があるのかも知れません。知らない人たちにも分からせる為にも、その辺りはもっと丁寧でも良かったと思います。

 椎名さんと増田知事が対談して、最後に増田知事が「はい、がんばります。」で終わって大笑いになっていますよね。つまり、今もご意見が出ていましたが、がんばらなければ残すことが出来ない、人間的にがんばるという意味と、利益至上でがんばりそして何かを壊していくというがんばり方の否定の意味での「がんばらない」。そこら辺りだろうとは思うのですが、もう少し「いわてがんばらない宣言」の意味合いをイメージとしてもくっきりさせていく必要があると思います。そしてこれは「Yui」という県政番組ですから、これからの課題として大いに、それこそがんばって頂きたいなと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは大坊さんお願いします。

大坊委員

 この番組を純粋に見ておりまして、タイトルの「いわてがんばらない宣言」そのものだなと思いました。視聴者もこの番組から心の癒しを感じ取ったと思います。椎名誠さんのとても豊富な知識と体験の中から滲み出る表情や言葉、一つ一つをゆっくりと話す、それが心に染み渡ってきて、とても良いなと思いながら見ました。案内役の高橋政彦さんの朴とつとした物腰も、椎名さんとの言葉のキャッチボールの中で、すごく合っているなと思いました。そして、沢内村や湯田町を番組の主役として選んだことも良かったと思います。温泉が豊富に湧き出て、それをうまく生活に生かしている場面が随所に出ていましたね。暮らしている人々の暖かさが滲み出ているのを感じて、心が洗われた気がしました。

 ただし、湯田町としてはPRしたかったのでしょうが、雪遊びする大人たちということで、湯田町の雪合戦協会の皆さんの練習風景がありましたが、これが「がんばらない宣言」の内容としてふさわしいのかな、ちょっと違ったような気がしました。というのは皆さん優秀なんですね。フィンランドの世界大会で4回も連続優勝しているということで。本当に素晴らしいことなんだけども、そこまで辿り着くには、やはりがんばらなければ、それだけの成績は収められないですから。ですから「がんばらない」という内容にふさわしいのかなと疑問でした。

 それから、高橋喜平さんのお話と写真、特に雪まくりや雪ひも、雪レース、雪えくぼといったものは写真を見て説明を受けないと、なかなか理解できませんが、しっかりと映像で見せてもらいましたので、番組を見ていた方も、とても満足できたと思います。私も数十年前、熊撃ちをしたことがあるのですが、その時に雪まくりや雪ひも、雪レースといった風景は見たことがありまして、ただ単純に綺麗だなと思いました。その時はそういった言葉を知りませんでしたから。ですからこれらの言葉を聴いた時、その時の見た風景が思い出されました。名前って大切なんだなと、そして実際の風景とマッチングするとなお感銘するんだなと思いながら見ていました。

 それから、囲炉裏を囲んで皆さんで語る場面がありましたが、この場面をもっと長く撮ったら、もっと「がんばらない宣言」らしかったのかなと思います。いずれ本当に素晴らしい良い番組だったと思います。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは松尾さん、お願いします。

松尾委員

 やはり全般的にセンスの良いまとめ方だったと思います。雪景色の中、レールを映しながら電車の一番前に乗っている視点から始まって、電車内の乗客と写真を撮ったりという旅人の雰囲気がまずよく出ていたと思います。先ほどもありましたが、白い背景に黒文字と赤文字を使用して、各章のタイトルを表現した辺りもセンスがいいなと思いました。ラストも番組で紹介してきたものをフラッシュバックで出して、なかなか良かったです。番組中に椎名誠さんが写真を撮るシーンが結構多く出てきて、それが最後に3枚ほど白黒で紹介されましたが、もう少しあっても良かったと思いました。ナレーションが最初は山田アナウンサーで始まって、途中から高橋政彦さんに代わりましたが、あの方はナレーションに関しては素人さんですよね。何か覚えがあるのでしょうか。非常に味があってとても良いナレーションでした。

 それから、食材や料理を各種紹介していましたが、食べるシーンが案外少なくて物足りなかったです。「がんばらない宣言」については、雪椿や雪の下の雑草の例などを掲げて説明しておりましたが、何だか般若心経みたいだなと思いました。例えば、古いものを次世代に残すこととか、豪雪地帯での生活というのは確かに大変で、行為としてはがんばらなくては出来ない作業なのです。しかし般若心経が言うところには、あるものをあるがままに受け止める。物理的なことではなくて精神的なことなのです。豪雪地帯の冬は寒いし雪は多いし、雪が降れば雪掻きをしなくてはいけない、それは大変な事なのだけれど、冬なのだから寒くて当たり前、年に何度かは雪掻きしなくてはいけないのは当たり前なのだと、自分の心の中で思うことによって、思わないよりも自分の負担やストレスが軽くなるんです。自分を取り巻く自然環境も勿論ですが、人間関係も当然、そういった気持ちで接することによってストレスが減少する、そういったことを般若心経では言っておりまして、繋がるなと思って見ました。

 椎名誠さんは、番組の後半、森に入って行ってからキャラクターの本領を発揮していたかなと思います。そして、雪が積もったからこそこの森の中には入って行けるのであって、夏場は草が生い茂って入れませんよという話を聞いた彼は、『アマゾンの雨季のジャングルと同じだ。』と言うコメントをしていまして、豪雪地帯とアマゾンという正反対の環境ではありますが、意外な共通性を示していました。深読みかも知れませんが、がんばらない生活というのは西和賀地方特有の精神ではなくて、どういった環境下でも気持ちの持ちようによって出来るのだということをアンユウしているのかなと思いました。その辺りについて、見終わってから考えさせられる番組だったと思います。

 それから、この番組は岩手県内だけでの放送なのでしょうか。是非、他県でも見て頂きたい番組だと思いますので、椎名誠という全国的に知名度の高い人も出ていますし、機会があったら県外に紹介して頂きたいと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。それでは笠川さん、お願いします。

笠川委員

 湯田、沢内という場所は年に何度か通り過ぎることはあっても、私にとっては、わざわざ行く場所でもありませんでした。温泉や砂風呂、スッポンなどは知っていましたが、消雪溝は良いなと思ったり、雪合戦の大会があるのは知っていましたが、国際大会で4連覇しているのは初めて知りましたから、番組を見て、やっぱりがんばっているんだなと思いました。

 がんばり過ぎるとガムシャラになって長続きしないし、達成感はあるにしても、その過程は楽しくないと思うんです。雪合戦をする大人たちは、楽しいからやっているのであってがんばっている訳ではないのかなと思ってみたり。そして時間をかけて受け継いできた伝統は、時間をかけて伝えていけば良いのだから、今がんばって外に何かを発信するとか、一生懸命伝えようといった感じがしない、地域の女性たちの漬物などの保存食にしても。ゆっくりと時間が流れて、そのうちに何かが伝われば良いという感じで「がんばらない宣言」なのかなと思ったりもしました。

 この番組は15時台の放送でしたが、映像から受ける、古い家屋の色や、雪に閉ざされた生活の色、それから雪遊びをする時の夜空の色といった、伝わってくる空気のようなものを考えると、出来れば日が暮れる時間帯であれば、画面と視聴者との一体感が得られたというか、空気の伝わり方がもう少し違ったのではないかなと思ったりもして、何か勿体無いかなと思って見ました。

 それから、番組があまりにも淡々と進みすぎて、見ている途中で、あと何分で終わるのかなと思う瞬間がありました。椎名さんのボソボソとした喋りも良いのですが、何か番組に盛り上がりがあれば、1時間飽きずに見られたかなと思います。しかし全体を通してみますと、この番組は岩手県内だけでの放送ではなくて、県外の方にも見て頂きたい番組だったと思います。以上です。

増子委員長

 ありがとうございました。私もコメントさせて頂きたいと思います。

 以前、この審議会で「Yui」を審議したとき、私は厳しい批評をした記憶がありますが、通常の「Yui」の番組スタッフと同じスタッフが作った番組なのですか。

吉田報道制作部長

 はい、そうです。

増子委員長

 「がんばらない宣言」を見ながら、スタッフはどこで化けたのかと思うくらい感動しましたね。映像が本当に美しくて、最初から最後まで美しい、素晴らしい映像だったと思います。「がんばらない宣言」というタイトルについては、番組中で「がんばらない宣言」に無理にこじつけるような、妙な解説がどうせ出てくるんだろうと思っていたら、それが無かった。このタイトルに制約されて番組がかなり作りにくいだろうという感じを受けたのだけど、皆さんの話を聞いているうちに「がんばらない宣言」はそれぞれに解釈すれば良いのだなと感じました。

 淡々と進んで行く番組ですが、私自身、この番組を見ているうちに自分の人生って貧しいなというか、いろいろな事を考えさせられました。その時に、そこに「がんばらない宣言」というものがあると、そういったことを考えるひとつの触媒になるということで、あって良かったなという気もしました。所詮、「がんばらない宣言」というタイトルをどう解釈してもキリがないことで、県の解釈にしても陳腐といえば陳腐なものですし。だからそれぞれに解釈をしてもらう、放り出す、そういった作りで良かったという気がします。

 それから番組が静かに流れすぎで間がもたなかったという意見、これは笠川さんと私の年の差だと思って伺っておりました。私は淡々と静かにボソボソと流れていくというのが、例えようもなく良かった。ですから皆さん今のテレビの全般的な作り方に毒されているというか、番組には山があって谷があって、どこかに大きな声が入って。そうでないとどうも見た気がしないという。もう一度原点に立ち返るという意味で、私はこういった作りの方が好きです。非常に新鮮な感じがしました。それから、岩手県外にも放送して欲しいという意見もありましたね。つまり「Yui」は県政番組なので県内向けに作られていますよね。勿体無いなと思って見ました。理屈抜きにして感動する人が沢山いる番組だと思うんです。県内向けという枠があったとしても、全国ネットにのせても十分に鑑賞に堪え得る作品だと思います。私は、夏にはこの地域の和賀川で釣りをするので行ったことがあります。夏の風景も、山が深くて、岩手県ってこんな風景があっていいなと思いながら釣りをしますが、冬の景色もそれとは別にまた美しいですね。番組を見終わって、自然に「行ってみたいな」という声が出ました。

 もっとご意見がある方、どうぞ。

宮野委員

 「Yui」は審議に関わらず見られる限りは見る番組ですが、県の言いたいこと、意図は何かなと思って見ています。各地方振興局別に地域をPRしたいのか、ですからどうぞいらして下さいなのか、ですから住んでみませんかと言いたいのか、ちょっと捉えどころがないといつも思っているんです。

 私は仕事柄、岩手県内は58市町村を四季を関係なく歩いておりますが、今回は沢内と湯田という、冬に行くと岩手県ではいちばん大変な地域で、景色とは裏腹に死ぬ思いをしたこともある地域だという気もしなくもなかったのですが。今でこそ銀河高原ですとか様々ありますが、それまでは何もない道路でして、その裏に隠された様々なものを今回番組で見て、やっとこういうところかと、でも私は行きたいとは思わないなと。

 でも増子先生のように、あの番組を見て「行きたいな」と思う人がいるのであれば、そういった受け皿を作るための県政番組だという気もしますので、受け皿も出来つつあるので、それを目的とするのならば、そういった視聴者の声をもっと行政に上げるといったことをしなくては、と常日頃思っています。一般庶民と行政のギャップの架け橋になるのが、テレビなどのマスコミの役目だと思っていますので、ここだけで審議するのではなく、県に意見を上げる機会があればいいなと思います。県政番組のあり方をもっと考えるべきだと思います。また県外で「がんばらない宣言」を発した場合、沢内・湯田を見て岩手県であると思われるのも大変かなという気も実はあって、とても構成が難しいと思います。良い点は分かるのですが、私達が思う良い点と、また違った見解もあるので、非常に考えさせられる企画だったと思います。

松本委員

 県政番組を制作しているのは、岩手朝日テレビとテレビ岩手しかありませんが、県政番組を審議した結果を、県に戻す機会はありますか。

吉田報道制作部長

 前回の「Yui」の場合も、議事録等々、県の公聴広報には伝えております。非常に貴重なご意見として、県側も捉えられているようです。

及川副委員長

 「Yui」は例えば県知事の個人的な正論や、県の高級官僚がのさばり出て宣伝するといったことが、自己抑制的に隠されている番組ですよね。大事な知らせるべきことは入るけれども、かなり県政の宣伝臭がない作り方をしている、そういった点では好感を持って見て参りました。

 この「がんばらない宣言」というのは、一昨年、読売や朝日といった大きな新聞に椎名さんや知事が出て、かなりの反響もあった。けれども県議会の中では首をかしげる議員さんもいたわけです。特に沢内となると、安政時代は罪人を流した、陸の孤島、天牢獄雪(テンロウゴクセツ)という言葉がありますが、雪の獄舎といわれたような。そこで戦後、冬季交通網を確保して自分たちで生命を守った村として、日本で最初に乳幼児死亡率ゼロを実現する、60歳以上の高齢者の医療費の10割給付を今でも堅持しているという、そういったがんばりの中でかつては難儀だけだった雪、耐えるだけだった雪を逆に活かして、親しんで遊んでというふうに、がんばった末にそういった豊かな発想が生まれてきたということがあります。

 少しでも岩手のことを知っている人ならば、西和賀・沢内を舞台にしたとなれば、現在に至る歴史はチラッと頭をかすめると思います。そういう時に「がんばらない」という新しい価値観が…ですから舞台としては非常に良かったと思います。ですが、いまいちという私の思いは、「がんばる」ことは人間として非常に大事なモラルのようなものとして染み込んでいるわけですが、それに対して「がんばらない」というのは言葉自体、否定的、反語的ですよね。だから何だろうと食いつくのですが、そこではっきりと分からなかった、私が期待しすぎたのかもしれませんが。味わいとしては、日本でも有数の豪雪地帯で生きている人たちをたっぷりと味わって見ることが出来ました。前半はそこに生きている人たちの風景や生活景がありましたが、後半はお話だけで雪中のトレッキングの場面で生きてくるのですが、あまりお話だけになってくると生活景が具体的に見えなくなる。高橋さんがいくら説明しても、椎名さんの反応がいまいちで、という部分がありましたから。悲惨な生活景ではあったのですが、そういった点がもう少し出れば面白かったと思います。

増子委員長

 確かに私のコメントは、旅人のコメントなんですよね。やはり、この地で暮らしている人たちのものとは全く別になると思います。ただ、そういった制約は抜きにして、私は敢えて県の担当者に伝えて欲しいのですが、この番組は県政番組の傑作のひとつになると思うのです。つまり、ストレートなスローガンばかりを出すのが県政番組ではないのだと。様々な形があるのだということを、県の担当者に言ってあげたほうが良いと思うのです。確かに及川先生のお話を聞くと、そういった歴史に触れていないのは何だというのは、よく分かりますね。

及川副委員長

 それを描けというのではなくて、岩手県民は、特に沢内と言えば典型的な場所として知っていますから、余計に「がんばる」と「がんばらない」の対比を読み取りたいみたいなところが出てくると思うんです。「がんばらない宣言」の最初の広告は、総務省の全国地域情報発信事業を活用してうったらしいのですが、第一弾で椎名さんが『常にがんばっていないと不安になる。そんなの変だぜ、現代人諸君』と呼び掛けています。何かに追い立てられるように、我々は常に何かを発していなければならないようながんばり方、そういったことがやはり『おかしいぜ』というところがある。そういう言葉が作品の中にあって、そこで椎名さんのボサッとした態度、鷹揚な対応が繋がると「がんばらない」ことの人間的な意味合いが、より鮮明になると思います。

増子委員長

 「がんばらない」というのは、どちらかと言えばやはり都会人の発想ですよね。椎名さんがこういう言葉を吐くというのは。都会で暮らしてくたびれ果てている人たちからはこういう言葉がスッと出てくるという。

及川副委員長

 優秀なコピーライターの発想ですね。

増子委員長

 その通りですね。それから民具の博物館も圧倒されましたね。一部ちらっと見ただけですが、ああいった博物館はよくありますが、あれほどのスケールのものは、そうそう無いですよね。

吉田報道制作部長

 建物が5つありまして、建物ごとにテーマがあります。

及川副委員長

 盛岡の人は、あれを集めた和尚さんのことを「からす」と呼びますよね。何でも集めるから。コインやらマッチのラベルやら、様々なものがあの博物館にはあります。

増子委員長

 あの博物館にテーマを絞っても番組がひとつ出来そうですよね。

及川副委員長

 雪景がとても綺麗に撮れていましたね。北海道テレビが昨年制作したドラマを見て雪景がとても綺麗だと思いましたが、この番組も実に綺麗な画面でした。

 この番組はやはり岩手だけでの放送ですか。

川崎社長

 今回は岩手だけでの放送でしたが、今日の皆さんのご意見を編成業務の担当へ伝えまして、番組としての販売を積極的にやって貰おうと考えております。

松本委員

 番組のバックに流れていた音楽ですが、様々なジャンルのものが流れていたと記憶しておりますが、あれはわざとですか。

吉田報道制作部長

 今回、音響だけは仙台の業者に依頼したのですが、アフリカの民族音楽などを選曲してみたようです。

増子委員長

 私も音楽について触れようと思って忘れていましたが、チグハグなようで妙にマッチしていたという、不思議な感じがする音楽でしたね。

及川副委員長

 音楽は良かったですね。

増子委員長

 そうですね。いかがですか、ほかに何かご意見はございますか。

及川副委員長

 合評からは離れますが、アリューシャンのアッツ島での軍医のドキュメント番組を見ました。90分と長い番組でしたが、とても良かったと思いました。ただ2箇所ほど、緒形直人さんの朗読で言葉が間違っていましたね。「三角兵舎(サンカクヘイシャ)」というのを「ミスミヘイシャ」と読んでいましたね。それから「夜暗(ヤアン)」というのを「ヨグラ」と読んでいました。明らかな間違いで、テロップが出るから余計に間違いが目立ちましたね。ああいったものは予め番組スタッフが脚本にルビをふってやるなりしたら良かったですね。ちょっと恥ずかしい間違いでしたから。

川崎社長

 確認してみないと分かりませんが、担当するディレクターも三角兵舎なんて言葉を知らない世代がやっている可能性がありますね。

及川副委員長

 こういった間違いは、良い番組だっただけに、しかも朗読も全体として良かっただけに残念ですね。

 それから「がんばる」もあらためて辞書を引いてみましたら、我々は普通「頑張る」と書きますが、眼を張ること「眼張る」なんですね。それから語源は「我を張る、我に張る」なんです。それが今や「頑張る」ですね、ワープロもそうですが。ですから、人間がきちんと眼を張ってよく物事を見て、しっかりやっていくという意味合いだったものが、何かこう、余計に肩に力が入るような「頑張る」になってしまったわけです。

増子委員長

 よろしゅうございますか。それでは次回の開催についてお願いします。

末吉事務局長

 次回は3月27日、合評番組は「銀幕のイーハトーヴ」です。

増子委員長

 それでは本日の審議会を終了します。ありがとうございました。 

7.審議機関の答申または改善意見に対してとった措置

特になし

8.審議機関の答申または意見の概要の公表

朝日新聞岩手県版に審議概要を掲載。

系列各局に議事録を送付。

本社受付に議事録を常備、閲覧に供す。

インターネットホームページに掲載。

9.その他の参考事項

特になし

10.配布資料

◎ 3月度単発番組編成予定表

◎ 期末期首編成予定表