放送番組審議会

3月(第56回)

概要

 岩手朝日テレビの第56回番組審議会(委員長 増子義孝県立大学教授)は3月27日(水)、盛岡市盛岡駅西通の同本社で開かれた。

 今回は「緑の大地に夢馳せて~110年目の岩手・小岩井牧場」について審議した。その中で、

  • 映像が綺麗で心が癒された。しかし登場人物の印象が弱く、全体的にインパクトがない。
  • タイトルからして、小岩井農場の歴史性がもっと強く出されると思ったが、それがなかった。
  • 風物詩そのもの。もう少し観光面、産業面からの小岩井農場の独自性を生かした、アプローチがほしかった。放送時間の(水)19時台というのは番組内容とマッチングしないのではないか。
  • 番組の狙いがはっきり伝わらない。映像がきれいだで終わってしまった。歴史的視点がもっとほしかった。
  • 家族全員で楽しみにして見た。映像の美しさに感動した。しかし農場で働く人達の部分になると番組がダレた、3人もの登場人物が必要だったのだろうか。
  • 大変素晴らしい番組だった。自然と人間が良く描かれていた、映像も音楽も素晴らしかった。視聴率が低かったのは、PR不足ではないか。
  • 映像的には小岩井の四季を良く捉えている。3人の人物の農場にかける夢もまずまず描かれている。しかし全体的に平板である、今この時期に小岩井を何故取り上げるのか、もう少し突き詰めてほしかった。ドキュメンタリーに必要なドラマ性に欠けていた気がする。

などの意見が出た。

出席委員は、及川 和男副委員長、石井 三郎委員、植本 花子委員、小川口 柳太郎委員、笠川 さゆり委員、松本 直子委員、宮野 裕子委員の7名、欠席委員は、増子 義孝委員長、大坊 忠委員、松尾 正弘委員の3名。

議事録

1.    平成 14年 3月 27日(水)午前11時~

2.    岩手朝日テレビ本社3階会議室

3.委員の出席   

委員総数 10名

出席委員数 7名

副委員長       及 川  和 男

委  員       石 井  三 郎

委  員       植 本  花 子

委  員       小川口  柳太郎

委  員       笠 川  さゆり

委  員       松 本  直 子

委  員       宮 野  裕 子

   欠席委員数 3名

委 員 長       増 子  義 孝 

委  員       大 坊    忠

委  員       松 尾  正 弘

会社側出席者名

代表取締役社長    蓮 見  博 民

専務取締役      桑 折  勇 一

取締役        横 舘  英 雄

業務局長         河 邊    喬

報道制作局長     星 井  孝 之

技術局長       菊 地  一 行

報道制作局      佐々木  織 恵

番組審議会事務局長  佐々木  瑞 夫

4.議   題

(1)4月の番組編成について

(2)番組合評

IAT開局5周年記念番組

「緑の大地に夢馳せて~110年目の岩手・小岩井牧場」について

(3)その他

(4)次回の審議会

開 催 日:平成14年3月27日(水)

合評課題:「放送全般について」

(5)閉 会

5.概要

* 映像が綺麗で心が癒された。しかし登場人物の印象が弱く、全体的にインパクトがない。

* タイトルからして、小岩井農場の歴史性がもっと強く出されると思ったが、それがなかった。

* 風物詩そのもの。もう少し観光面、産業面からの小岩井農場の独自性を生かした、アプローチがほしかった。放送時間の(水)19時台というのは番組内容とマッチングしないのではないか。

* 番組の狙いがはっきり伝わらない。映像がきれいだで終わってしまった。歴史的視点がもっとほしかった。

* 家族全員で楽しみにして見た。映像の美しさに感動した。しかし農場で働く人達の部分になると番組がダレた、3人もの登場人物が必要だったのだろうか。

* 大変素晴らしい番組だった。自然と人間が良く描かれていた、映像も音楽も素晴らしかった。視聴率が低かったのは、PR不足ではないか。

* 映像的には小岩井の四季を良く捉えている。3人の人物の農場にかける夢もまずまず描かれている。しかし全体的に平板である、今この時期に小岩井を何故取り上げるのか、もう少し突き詰めてほしかった。ドキュメンタリーに必要なドラマ性に欠けていた気がする。

6.議事の内容

佐々木事務局長

只今から第56回番組審議会を開催いたします。本日は増子委員長、大坊委員、松尾委員が欠席でございます。また弊社蓮見社長は15分程遅れて参りますのでご了承ください。また本日の合評番組のディレクターの佐々木が出席させて頂いております。それでは弊社、桑折専務よりご挨拶申し上げます。

桑折 専務

おはようございます。本日はお忙しい中ご出席頂きましてありがとうございます。

本日は開局5周年番組を合評いただきますが、よろしくお願い致します。それから、資料として岩手日報のコピーをお配りしておりますが、これはテレビ界のみならず、新聞、ラジオ、雑誌等が今一番注目しておりますメディア規制の3法案についての記事です。「人権擁護法案」、「個人情報保護法案」は継続審議となっております。それから「青少年有害社会環境対策基本法案」は近く国会に出されることになっております。小泉総理の訪韓時の記者会見で今国会では有事立法と並んでこの3法案をどうしても通すと言っております。この法案はマスコミの側からしますと、例えば過剰な報道を控えることや、人権に配慮すること、青少年に害がある報道は控えるといったプラス面も勿論あるのですが、やはり取材というものを、総務省や法務省といった国側が監視する体制が整ってきますと「知る権利」が非常に危うくなるという危惧がありますので、マスコミは反対を表明しております。委員の皆様方にも是非、ご理解とご協力を仰ぎたいと思います。本日はどうぞよろしくお願い致します。

佐々木事務局長

それでは本日は増子委員長が欠席でございますので、及川副委員長、議事の進行を宜しくお願い致します。

及川副委員長

それでは私が代わりを務めさせて頂きます。それでは4月の番組編成のご説明をお願いします。

河邊業務局長

それでは4月改編についてご説明させて頂きます。今年はワールドカップがございまして、テレビ朝日系列では6月14日の日本代表第3戦の「日本×チュニジア戦」の放送権を獲得しておりまして、テレビ朝日系列としましては、それを中心にイメージアップを図って行こうと考えております。ゴールデンタイムにつきましては、現在、弱点であります火曜と土曜、日曜の19時台を中心に改編しまして、視聴率を取っていこうという方針です。全日の朝帯の「スーパーモーニング」につきましては、司会者が蟹瀬さんから前田吟さんに変わります。また深夜帯につきましては月~木の24時台に21年間生放送をしておりましたトゥナイトに代わりまして、もっとヤングアダルト層を狙ったバラエティ番組を編成いたします。テレビ朝日の4月基本編成方針としまして主だった点は以上でございます。

単発番組につきましてはお配りしました資料をご覧下さい。

それでは新番組につきましてはVTRをご覧下さい。

(VTR視聴)

以上で番組編成についての説明を終了させて頂きます。

佐々木事務局長

それでは合評に入ります前に、社長が参りましたのでご挨拶申し上げます。宜しくお願い致します。

蓮見 社長

遅れまして申し訳ありません。また今日は、雨の中お集まり頂きましてありがとうございます。弊社としましては久しぶりにゴールデンタイムに編成した自社番組を合評して頂きますが、1年間という時間をかけて取材して制作した番組でございますが、放送前にかなり番組宣伝をやりました。ですが、我々が期待した程視聴率は伸びませんでした。今日、出席しておりますディレクターの佐々木は、入社5年目の若手ですので、先生方のいろいろなご意見を頂いて、今後の作品作りに役立てたいと思いますし、また先程述べましたように、期待していた程の視聴率が取れなかったという点について、どのような事が欠けていたのかについて、先生方に忌憚のないご意見を頂いて、今後の番組作りの参考にさせて頂きたいと思いますので、どうか遠慮なくお話しして頂きたいと思います。よろしくお願い致します。

及川副委員長

4月の番組編成についてのVTRを拝見しましたが、単に4月だけではなくて、新しい編成ということで、とても意欲が伝わってくるような、期待を持たせるような感じを受けました。これについては何かご意見はございますか。

それでは、番組合評「緑の大地に夢馳せて~110年目の岩手・小岩井農場」に入りたいと思います。笠川委員からお願いします。

笠川 委員

映像がとても綺麗で、最初と最後の小岩井の四季の映像には、女性的な柔らかさを感じました。今で言う“癒し”を感じられる映像で、季節ごとの映像も綺麗でしたし、特に冬の映像が好きでした。雪と光と風の流れがとても情緒豊かに出ていると思いました。普段、何気なく見学に行く小岩井農場とまた違う意味で、映像で見るとこんなに綺麗なんだなあと思いながら見させて頂きました。先月頂いた資料の中に「先人たちの精神とは」と書いてありましたが、110年前は荒地で一本の木を植えることから始まったという部分が、多分その精神を伝えるフレーズなのかなと思って見ましたが、ただその後に出た3人のコメントなどは、先人たちの精神を受け継いで何かをしているというよりも、「緑の大地に夢馳せて」という部分が強く出ているのかなと。いろいろな夢が出ていたのですが、個人的に思うには、三田さんという女性が1年間を通しての、夢から不安とか夢から遠のいていく自分の姿とかが出ていたのですが、一般にもあり得ることですから珍しいことでは無いと思いながら見ました。牛の世話をする高橋さんや、森林を守っていく吉田さんとか、普段私たちが小岩井農場を訪れて目にする部分ではない、小岩井の内部にはこういう方々か居るんだなということは改めて感じましたけれども、小岩井にはもっと深い何かがあると思うんです。放送して映像に出してしまうと、一般の人たちが入ってきて荒らしてしまうということもあると思うのですが。川があってそこでヤマメを養殖したりといった隠された部分まで見えたのならば、もっと110年の歴史ある小岩井の自然を守ってきた、農場を経営するという精神がもっと伝わったのではないかなと思いました。先ほども言いましたが、1年間取材されたので、三田さんが期待して入っていった表情と、迷う表情、そして獣医として夢に向かっていく段階での顔つきの変化。どんどん自信を持っていく、強くなっていく表情は凄く捉えられていたなと思います。いつもなら合評番組はビデオに撮って何度か見るのですが、今回は一般の視聴者として見たいなと思ってオンエアの時に一度だけ見ました。3人の人物を描くのを抜きにして、もっと軽めにしてもっと癒しの部分の映像がもっとあったのならば良かったんじゃないかなという思いをしながら見ました。

及川副委員長

ありがとうございました。それでは小川口さんお願いします。

小川口委員

タイトルから想像しましたことは、民間で最大規模の農場である小岩井の歴史性を強く出すのかと思いました。小岩井の謂われが最初に少しはありましたが、もう少し歴史性について強くやって欲しかったと思いました。それから獣医と酪農、林業担当という3人の夢馳せてについては追っていたのですが、もっと小岩井の事を何か違う方向から映像で捉えても良かったと思います。映像面からしても、同じ場面が2度程映ったところもあったような気がしたり、あれっと思う場面があったりしました。それから、宮沢賢治が小岩井を愛したということは常日頃から言われておりまして、彼の作品が字幕で何度か流れましたが、やや出過ぎではないかなと思いました。小岩井本体を別な方向から追う方法は無かったのかなという感じがいたしております。いずれ、小岩井の皆さんが一生懸命やっていることは承知していますから、3人を通しての「夢馳せて」についてはやや抑え目にして、小岩井の全国や岩手における位置づけや、宮沢賢治についてもっと掘り下げても良いのではと思いながら見ました。

石井 委員

番組の印象は、風物詩そのものだったと思います。丁寧に作られているし、BGMも非常に静かな音楽が流れている、あるいはナレーションも原田知世ほかが穏やかなナレーションをしている、それから自然の美しい風景というようなことで、癒し的な画像としてはそれなりのものが出来ているのではないかと思います。私的な立場として不満だったのが、ひとつは観光的な視点に立った場合、それから産業的視点に立った場合のこの2点についてコメントしたいと思います。まずこの番組は首都圏や他県でも放送したのですか。

桑折 専務

順次やっているところです。

石井 委員

そうしますと、小岩井農場というものをまだあまり深く知らない方々にも是非見て貰うべき番組だったと思います。小岩井農場の魅力である「自然」という部分が確かに強調してありましたが、あとは3人の生き様という形で、他県の人達に訴える力はやや弱いと思います。私でしたら、農場内の配置がどうなっていて、どんな施設があってまた観光スポットはどのようなものがあるかという事が知りたいのですが、その辺りが映像で何箇所か出ただけで、観光客に対しての「ご案内」的な要素が弱かったので不満でした。それから、今はエコロジーなどと言われている時代ですが、ある意味その先端を行く力がある産業であり企業である小岩井農場だと思いますが、その観点での取り上げ方を是非強調すべきではなかったでしょうか。無農薬やオーガニック、肉骨粉がどうのと一部触れた部分はありましたが、ややそういった観点が欠けていたという気持ちがします。この番組が、どういった視聴者層に訴えたかったのかがやや不明でした。3人の登場人物のドラマを見せたかったのか、110年という歴史に徹しているわけでもないし。放映時間がゴールデンですから、通常ならニュースまたは娯楽に徹する時間帯だと思いますから、そういった時間帯の中で極めて風物詩的な番組をやることが、視聴率が期待していたほど上がらなかったことの背景にあったのではないかと思います。ただし、番組自体はとても綺麗に仕上がっていたので、もっと別の時間帯にゆっくり見たかったと思います。

宮野 委員

放送当日、最初から見ることが出来ずに、番組途中の獣医の三田さんが登場するあたりから見たのですが、その時は小岩井農場を産業として捉えているのかと思いました。後でビデオで最初から見ましたら、映像が非常に観光地っぽかったので観光案内かなと感じました。前半と後半で番組の構成が違うのかと思いました。全体の感じとしては、まず昨年合評した山形テレビの「奥の細道」の番組に映像的に似ていると思いました。番組の捉え方としては先ほど石井委員がおっしゃったように、観光地と言いますか映像として見せるものなのか、岩手の産業として見せるものなのか、そのどちらなのか全部を見ても判らなかった点が一番大きかったです。私は個人的に仕事で、小岩井農場の山林緑化部へ行っておりますので、産業としてはよく分かりますし、そこで働いている方々の気合や、環境問題でISO14000に取り組んだりしていますので、番組を見ていてよく分かるんですよ。しかし一般の人が見てそれをどう理解するのかが分からなかったです。地元の人に「小岩井ってこんな所だよね」って軽い気持ちで見せるためにはこの映像で良いと思います。歴史などを考えますとまた違う捉え方があったのではないか、現在働いている方は勿論、退職なさって小岩井にとても愛着を持っている方もおりますから、そういう人を取り上げるとか何か別の方法があったかなと思います。皆さん感じたと思いますが、こういった番組は地味な感じがしますし、19時台はどこの家庭でもだいたい見る番組が決まっていると思うんです。その中にあってこの番組を見せるというのは難しい。例えば土曜の午前11時頃にやったら、ゆったりとした気持ちで見られるんじゃないかなとは思いました。一番印象に残っているのは、獣医の三田さんの表情が入社当時のおどおどした顔から自信に溢れた顔になっていったことです。1年働くと表情って変わるものだなとつくづく感じました。1年間、ひとつのテーマを追って取材するということは、会社的にとても難しいことだと思います。この番組を作ったということは、会社としても取材にあたった方にとっても将来に繋がっていくと思いますから、評価して良いと思います。以上です。

松本 委員

事前の番組PRを見た時から、とても楽しみにして家族全員で番組を見ました。映像の美しさには家族全員が惚れ惚れしまして、原田知世さんのナレーションも大変良くてマッチしていました。改めて小岩井農場を拓いた先人の方々の、先見の明だとかご苦労だとかに頭の下がる思いでしたし、また岩手県にこういった場所があることがちょっと誇らしく思えて、家族で見るにはとても良かったと思います。ただし3人の人物を取り上げる辺りからダレてしまいました。3人物を取り上げますとどうしても印象が散漫になり易かったり、もしかしたら佐々木ディレクターの人物への惚れ込み方が強すぎたのか、逆に惚れ込み方が弱かったのかどちらかだと思います。小岩井農場は、取り上げる素材としてはとても興味深く、歴史的なバックボーンもあるし是非皆さんに見て欲しい素材ですから、着目点はいいと思いますが、何度も言いますが、思い入れが強すぎたのか逆に気持ちが焦ってしまった結果なのか、ちょっと散漫になりすぎたところがあると思います。今回の番組を見て改めて感じたのは、小岩井農場とは1本の木を植えるという、農業の場を作ることから始めて、実際に農業生産を始めてそれを加工し販売しお客さんを呼ぶという、いま流行りのグリーンツーリズムと言うのでしょうか。そこまでのサイクルを一つの農場の中でやり得ているということは、今は珍しいことではありませんが、110年も前からそれを念頭に構想が始まっていることが、この番組を通して改めて再認識しました。その点には大変感謝しております。

植本 委員

見終わった印象としては、とても良い番組だと思いました。そして清々しい感動を覚えました。ほかの委員の方と意見が違うので不安なのですが、ディレクターの個人的な視点から作られた、ある意味精神論的な番組で、とても素晴らしいなと思って番組にハマりました。春夏秋冬という季節を軸にして、三田さん、吉田さん、高橋さんという3人を軸に歴史や自然、そしてそこでの人々が実に誠実に美しく描かれていたと思います。細かい所を申し上げると、映像は季節ごとの一番美しいところを見せていましたし、音楽の選曲もとても良かったと思います。場面のイメージをとても大切にされていて、場面が変わると効果的に音楽も変えていて非常に好感が持てました。映像では、赤レンガ色の屋根が宮沢賢治のイーハトーブのイメージもあるのですが、綺麗に撮られていてとても印象的でした。ディレクターは、恐らく宮沢賢治の宇宙論や精神論のような何かをお持ちになって、この番組に取り組まれたと思いまして、もしそうであれば是非お聞きしたいなと思った次第です。結局、こういった感想なのですが、見終わって申し上げたいことは一つに尽きるなと思って今日は来ました。さきほど蓮見社長がおっしゃられたように、もっと宣伝をすべきだったのではないかと思いました。番組宣伝もテレビスポットをかなりうたれたとお聞きしましたので充分したのだと思いました。しかし私自身、コンサートをマネージメントする仕事をさせて頂きますと、経験から、若い演奏家や無名の演奏家だけど素晴らしい、というものをお客様に提供しますけれども、やはり毎回、宣伝不足であった、もっと告知するべきであったと後悔してしまいます。そういった経験からも、もっと宣伝を広くして欲しかったと思います。いずれにしましても、開局5周年の素晴らしい番組だったなと思います。以上です。

及川副委員長

ありがとうございました。私も一言申し上げたいと思います。皆さんの評価のポイントが大事なところを抑えていると思ったのですが、春夏秋冬の非常に美しい映像をまんべんなくと言って良いほど捉えていますし、3人の人物の春から翌春までの経過の中で、新人の三田さんとすればひと山を越えて本格的な獣医の仕事へ張り切ろうとしている姿。それから牛の飼育担当の高橋さんは、途中でBSE問題発生がありながら日本一の牛を作りたいという夢。それから吉田さんも外材の影響で市場出荷しても木材が売れ残るという困難にもめげずに、未来を信じて山作りをして行きたいという。こういう「夢馳せて」という所が美しい自然の中に描かれたということでは、単に小岩井農場というタイトルではなくて、「緑の大地に夢馳せて」というそこに制作者のテーマ或いは思いがあるのではと思ったのですが、岩手山の姿や空、雲、それから牧場の道とか、いろいろ農場側から自然を美しく撮っているのですが、また牛の出産とかホルスタイン牛の自然交尾という非常に珍しいところも撮ったりしているのですが、やはり全体として何か平板だったという印象を受けた訳なんです。テレビであれ文学であれ絵であれ、ひとつの作品を作り上げた後には、その作品の中に次への課題が必ず残るものなのです。この番組の場合、その課題は何なのかを考えますと、今までも出ていますように、春夏秋冬の四季毎にしかも3人を家庭生活の場面まで含めてスケッチするとなりますと、4つの季節×各3分×3人としても、それだけで36分かかってしまうことになる訳です。四季毎に3人の仕事をスケッチするという構成にまず一つ問題があったのではないか。そしてテーマとしては「緑の大地に夢馳せて」ということは分かるのですが、それは3人の言葉としては出る訳ですが、ドラマ性においては特に三田さんを除けば乏しい。そして歴史的な面ではスケッチはあるものの、創設のロマンがその後の現実との苦闘とかを通してどう小岩井農場に形成されてきたのかという所が、構成の問題もあるのですが。かつて小岩井農場には小学校もありまして、農場で働く人達の子弟がそこに通って、だんだん減ってきて廃校になりましたけれども。そういう大人数の共同農場的な要素もあった訳です。その中で培われた伝統があって、その結果として現在のこの人という位置づけというようなことが図られれば。今、三代目の人が働いていますからね。例えばおじいさんおばあさんがいてその子供夫婦とさらに孫といった被写体を探し出して、そこを通して現在と歴史を描くという、縦軸と横軸を一人の人物像に集中させるような形で描く方法もあったのではないかと。勿論、そういうことはお考えになって、適当な人物が見つからなかったということもあるのでしょうが。いずれテーマが明確にならずに、しかも浅かったという点が惜しまれると思うのです。私はナレーションも迫力が無いというか、何か平板だった印象を持ちました。それからもう一つは、BSE問題が9月に起きたわけです。その時に“うちは120%安全だ”と担当者に言わせるだけではなくて、今までも肉骨粉などを使わないような草地を作って、立派な飼料を作ってやってきたということが、最大の解答になるわけで、そういった所も欲しかったなと思うのです。今何故、日本で民間最大の農場である小岩井なのか、そこをどう捉えるのかという所のモチーフ、作品作りの芯棒のような所にいまいち弱かったのではないかと。ドキュメントは単に映像だけに頼っては、やはり迫力に欠ける。何かそこにドラマ性を孕ませて欲しいという思いを持った訳です。でも、これだけの作品を1年間粘り強く追って作られた、その中でやり残しの課題が皆さんから良い意見が出されているのは、ディレクターとしては幸せではないかと私は思いますので、是非、次の制作にも生かして頂けたらと思います。

それから、不毛の荒地、火山灰の原野だったということは全体的には言えるにしても、木一つないそこに一本の木を植えることから始まったというイントロのナレーションは、正確に言えば明治24年に開発をする前からあの辺りには楢の木が結構あった訳で、それを全部切らずに残した木が今も柵で囲われて残っています。その残した事が逆に素晴らしい訳で、それがもう樹齢100年~200年の木なんです。だから、逆に1本も無かったということよりも、草地を作る時にあえて木を残した創設者達のセンスやロマン、そういった場所があちこちに点在していますから。

この番組の企画をしてから取材に入るまでの期間はどれくらいありましたか。1年や半年、それとももっと短かったのですか。

佐々木ディレクター

短かったです。

及川副委員長

やはり、土台の調査をしっかりしてから始めることが大事なのかも知れませんね。

石井 委員

1年かけて取材されてますから、その資料やテープからあと3~4本の番組が出来そうですね。観光的な編集、エコロジーの先端企業として焦点を当てた番組、人間ドラマとしての番組、歴史の番組。それが全部一緒になっていることで、一つに徹し切れなくなっていることに、やや不満を感じるのでしょうね。

佐々木事務局長

先生方から頂いたご意見を踏まえて、佐々木ディレクターの意見はどうですか。

佐々木ディレクター

小岩井農場そして1年という期間で、ということで取材を与えられたのですが、何を基準に作ろうかと考えて、やはり小岩井農場と言いますと先に目がいくのが歴史性なんですね。110年の歴史、勿論始まりも途中も非常に興味深くて、それだけで1本の番組が本当に出来るくらいの歴史を持っている所なのですが、19時のゴールデンという放送時間を考えた時に、歴史で1本作るのではなくて、現在の小岩井農場を捉えたほうがいいのかなとまず思いました。それで、小岩井農場は110年の歴史を持っていますが、110年前に小岩井農場と同じように拓かれた農場が300もあったと言われていますが、その中で1世紀以上に渡って発展を続けてこられたのは小岩井農場だけだったんですね。どうしてここだけが出来たのかと考えた時に、やはり小岩井を愛し支え続けてきた職員の人達がいたからじゃないかと思いまして、今の職員の人を取材しようと思いました。110年の小岩井農場の中で伝わってきた精神を伝えたいと思いまして、それは歴史であり、先人達が作りあげてきた四季、そして心に受け継げられているものだと思いました。それで精神をテーマに作ろうと思いました。その精神とは何かと考えた時に、何も無い荒地から現在の緑の大地を作りあげた、そして歴史の途中でも沢山の困難を乗り越えてここまで発展を続けてきたという、苦しい中でも未来を見据えて常に乗り越えていくという、ありがちかも知れませんがそういうものだと思ったんです。なので今回、職員の方を取材させて頂こうと思った時に、その人達が自分の困難を乗り越えていく姿を捉えたいと思いました。先ほど、3人では多いというご意見を頂戴しましたが、小岩井農場は多角事業をしていますので、例えば一人の方だけですと農場全体の姿が伝えられないと思い、3人という形をとらせて頂きました。人選としましては、農場の基幹事業である酪農、山林、そして新入社員ということになりました。他にも選び方は確かにあったと思います。三代目の方も勿論いらっしゃいましたし、もっと話題性を持った方もいると思います。それで3人の方達が1年を通して自分の困難を乗り越えていく姿と、それに小岩井の四季を絡めました。四季の部分には宮沢賢治の詩を使いました。彼は小岩井農場をとても愛し沢山の詩や童話に取り上げていますが、知らない人もいる思って、ああいった構成にしました。委員の皆さんのご意見を納得しながら聞いておりましたので、今回生かせなかった部分は次の機会に是非反映させたいと思います。ありがとうございました。

蓮見 社長

先生方のお話を聞いた中で、やはり及川先生が言われたように、1時間の番組は映像だけでは持たない、しっかりとしたテーマを持たなくてはいけない。むしろ取材に入る前の企画の段階で相当練らないと、最終的に満足するようには仕上がらない、テレビ番組とはそういうものです。石井先生も言われましたが、地元の人だけを対象にした番組なのか或いは他県の人達も含めた番組内容なのかという、簡単なことを言えばそういった事からの分け方もありますから、しっかり組み立てていかないと。1年も取材をしていると、だいたいディレクターは取材対象に惚れ込んでしまって、何でも取り上げたいという気になってしまうんです。そうなると、番組の内容が散漫になるということはあり得るので、勿論取材をする中で良いものがあると方向転換する場合もあるけれども、やはり取材に入る前の構成をしっかり組んで、放送時間や放送地域などといったことも考えながら取り組まないと、1時間番組はウエィトが大きいですから。先生方が言われていることは皆当てはまることですから、全部吸収するのは難しいが、社内的に整理をして今後このような番組を作る時に参考にして貰いたいです。今日のご意見は貴重です。ありがとうございました。

及川副委員長

番組審議会では独自の番組制作、特にドキュメントへの期待が今まで繰り返し出てきました。そして岩手山の番組はなかなか良いものが出来たし、その前の「スポットライト」ではますます期待が高まり、是非良い番組がどんどん作られていくことを願ってきました。そういう流れの中で今回の作品を皆さんに見て頂きました。ほかにご意見はございませんか。それでは番組合評は終了します。

それでは次回の開催についてご提案頂きたいと思います。

佐々木事務局長

次回は4月25日にお願いします。合評につきましては、放送全般についての皆さんのご意見をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

及川副委員長

それでは終了いたします。ありがとうございました。

7.審議機関の答申または改善意見に対してとった措置

特になし

8.審議機関の答申または意見の概要の公表

3/29付 朝日新聞岩手県版に審議概要を掲載。

当日3月27日(水)の夜のニュース番組「IATスーパーJチャンネル」の中で審議会の模様を紹介した。

系列各局に議事録を送付。

本社受付に議事録を常備、閲覧に供す。

インターネットホームページに掲載。

9.その他の参考事項

特になし

10.配布資料

◎ 4月度単発番組編成予定表

◎ 4月基本編成表

◎ 新番組解説

◎ 4~6月タイムテーブル

◎ 岩手日報 メディア規制関連記事コピー